毎ブラ2-041:代表選手名鑑#8 田中章仁の巻

毎ブラ2-041:代表選手名鑑#8 田中章仁の巻_a0243426_18372552.jpg

 私が彼の存在を初めて知ったのは、『闇の中の翼たち』のための取材で、往年の名プレーヤー・宮島健二さんのインタビューをしたときだ。あれは2007年の暮れぐらいだっただろうか。雑談の中で、宮島さんはこんな話をした。

「ハッサーズに、こいつ天才じゃないかと思う選手がいるんですけど、知ってます? ボールのコースを読む感覚が異様に鋭くて、当たり前みたいに敵のパスをインターセプトしちゃうんですよ。あれは、これから鍛えたらすごい選手になると思う」

 当時の私はほぼ代表選手のことしか知らなかったので、期待に胸が高鳴った。実際のプレーを見る前に、こんなふうに噂話で評判を耳にしたのは、今にいたるまでその選手だけだ。

 それが、田中章仁だった。話の感じから、勝手に若くて繊細な男の子をイメージしていたので、初めて見たときは「思ってたのとちゃう」だった。『闇翼』で「キャリアは浅いが、若い選手とは言えない」などと書いてしまい、いまだに本人からその件で厭味を言われるのも、最初のギャップがあったせいかもしれない。ちなみにあの本では彼の生年も間違えて書いてしまった。電子書籍版では修正したが、アキさんは1978年生まれです。ほんと、いろいろごめんなさい。

 ともあれ、そのプレーは聞きしに勝るものだった。2006年から「メタボ対策」でハッサーズに加入した彼が、早くも2008年に代表入りを果たしたのはちょっとしたシンデレラストーリーだが、あのボールに対する鋭敏な感覚を持っていれば、少しも不思議はないだろう。DFとして敵のシュートコースをふさぐ能力は天下一品である。

 ただしそれは、「自分が体を張ってコースを切る」だけの話ではない。フィールド上の敵味方のポジションを把握する能力も高く、声で味方を動かして敵の攻撃スペースを限定することができるから、最終的に自分がシュートコースに入れるのだろうと思う。守備時の田中は、いわゆるひとつの「ピッチ上の監督」だ。野球のたとえで申し訳ないけれど、ボヤキが多いあたりも含めて、プレーイングマネージャー時代のノムさんみたいな存在感がある。

 代表入りして以降は課題だった足元のテクニックも向上し、ときおり見せる果敢な攻め上がりは代表チームにとって重要なアクセントのひとつとなった。試合終盤にパワープレーに出るときの姿は、じつに男前。ゴール前で彼が放つヒールショットは、私の大好物のひとつである。見たいなぁ、アジア選手権でも。

 また、攻撃の起点としての役割も大きい。とくに、ハッサーズのチームメイトである黒田とのコンビネーションは今の代表に不可欠だ。静かに見なくてもいいサッカーだったら、アキさんのパスがトモさんの足元にピタリと収まるたびに「オーレ!」とか何とか叫んで拍手をしたいぐらい見事なものである。

 とはいえ、彼にとって最大の目標は、きっと今回も「失点ゼロ」だろう。「点を取られなければ負けない」がアキさんの口癖だ。昨年の世界選手権では、流れの中からの失点はなかったものの、残念ながらフランス戦で第2PKを決められてしまい、宿願を果たせなかった。次こそは絶対に、と思っているに違いない。

 このところすっかり体が引き締まり、当初の目的である「メタボ対策」は完全に成功した。次に成し遂げるのは「無失点でアジア制覇」だ。がんばれ、アキさん。
 
by deepriver1964 | 2015-08-09 19:18