毎ブラ2-040:代表選手名鑑#7 山口レジェンド修一の巻

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 シブい。こういうのを、いぶし銀の味わいというのかもしれない。4年前、アジア選手権開幕前日の山口修一である。

 真剣な表情で何をしているかというと、ウォーミングアップで膝の屈伸運動をしているだけだったりするのだが、私はヤンマーさんがこういう柔軟系の運動をしている姿が昔からなぜか妙に好きだ。体がやわらかいのである。

 そのやわらかさのせいかどうかよくわからないが、ヤンマーのドリブルには独特のウナギ感がある。パワーやスピードはあまり感じさせず、むしろどちらかというと背中に脱力感が漂っているんだが、なんとなくヌルヌルと敵DF網をすり抜けて、あれよあれよとゴールに肉迫するのである。

 初めて見た人は、おそらくヤンマーがボールをコントロールしているのではなく、あちこちに行くボールを追いかけているように思うだろう。でも、それは違うのだ。ああ見えて、彼にしかわからない間合いでちゃんとボールをコントロールしている。あんなふうに敵を煙に巻くようなドリブルをする選手は、世界にもそうはいない。今回のアジア選手権では最後方のDFとして起用されることが多いと思われるが、どこかであの妙技を披露してほしい。

 ちょっと酔っているので思いついたことを脈絡なく書くが、『闇の中の翼たち』のための取材で、インタビューにいちばんお金を使ったのが彼だった。鶴橋の焼き肉屋だ。よくわからずに入ったら、あんがい高い店だった。しかも、食事を始めるまで気づかなかったのだが、目の見えない人と焼き肉を食べると、こっちはやたら忙しい。焼いて、皿に載せ、焼いて、皿に載せとくり返していると、インタビューどころではない。そんでもって、ヤンマーさんは寡黙だ。また、質問の意味をしっかりと自分なりに飲み込んでから答えたいタイプの人なので、一問一答に時間がかかる。そんなこんなで、あんなに1コメントあたりの単価が高くつく取材もなかったよなぁ。

 でも、ヤンマーの言葉にはそれだけの値打ちがあった。質問に対して簡単に「そうですね」などとは言わず、自分で確信を持てることだけを、丁寧に言葉を選びながら話してくれる。その話は、噛めば噛むほど味わい深いのだ。体はやわらかいけど、良い意味で頑固なところのある、芯の強い人だという印象を抱いた。

 ところで、これは『闇翼』にも書いたけれど、2002年に誕生したブラインドサッカー日本代表の練習試合で、初めてゴールを決めたのは彼である。たまたまテレビの取材が入っており、そのシーンはしっかりとカメラに収められた。きっと放送でも使われたに違いない。たぶん、日本のテレビで最初に放送されたブラインドサッカーのゴールシーンは、山口修一が決めたものなのである。まさに伝説の男なのだ。

 当時、日本のブラインドサッカーは関西から始まった。私が取材を始めた頃も、代表の半分ぐらいは関西勢。合宿も2回に1回は神戸で行われていた。そのため私の中ではいまだに「ブラサカといえば関西弁」というイメージが強い。

 しかし徐々に代表チームは関西弁濃度が下がり、風祭さんも去ったため、ピッチ内で聞かれる関西弁はほぼヤンマーだけ。でも、なにしろ寡黙で声が小さいので、あまりそれが聞かれないのが残念である。

 当初、代表チームは「Voy」の代わりに「まいど、まいど」と言っていた。もしかしたらそのときは彼も今より大きな声を出せていたかもしれない。ヤンマーのノースピークを減らすには、練習時に、いっぺんそれでやってみたらいいんじゃないかと思ったりする。まあ、一度は生で「まいど」を聞いてみたいだけなんだが。なんやようわからん話になってしもたけど、がんばれ、ヤンマー。
by deepriver1964 | 2015-08-09 01:43