毎ブラ016:ブラジル遠征のこと

 2006年11月にアルゼンチンの世界選手権を取材した後、「次はブラジルで大会あります」と言われたときは、正直「また南米かよ…」と呻いたものだ。だって遠いんだよ南米は。ほんとうに遠い。気が遠くなるほど遠い。日本から行くのにあそこより遠いところって月だろ?っていうぐらい遠いのである。

 しかしブエノスアイレスで最高峰の試合を見てしまったライターにとって、世界選手権で対戦のなかったアルゼンチンやスペインと日本代表の戦いを見られるというのは、あまりにも魅力的だった。それ見なきゃ本なんか書く資格ないだろ、という強迫観念みたいなものもあった。だから、無理やり行った。

 行ってよかったですよほんとうに。スペイン戦の勝利を目撃できたから、というだけではない。あの遠征で、私は初めて選手たちの懐に飛び込めたように思う。宿は別だったものの、選手団以外の日本人は私だけだったので、試合会場までのバスにも同乗させてもらったし、負傷した落合選手が病院に担ぎ込まれたときは、そちらに同行したスタッフと監督が連絡を取るのに、現地で使える携帯電話を持っている私がいないとどうにもならない的な状態にもなったりしたので、なんかもうベッタリ一緒にいることができたのだった。

 とくにバスでの移動時間は最高の取材機会だったなぁ。バスの中ほど、選手たちの人間性や関係性がよくわかる場所はない。「闇翼」に書いた義眼をめぐる真っ黒なジョークを聞いたのも、あのバスの中だった。「あのぅ、これ、おれも一緒になって笑っていいの?」と問うた私に、オッチーが「いいんですよ〜」と答えてくれた瞬間に、私の中で何かがガラリと音を立ててひっくり返ったような気がするのである。
by deepriver1964 | 2013-11-29 18:30