毎ブラ2-037:代表選手名鑑#4 黒田智成の巻

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 ジャパンのナンバーファイブ。おそらく、国際大会で日本代表の試合を見た海外の関係者の多くが、その背番号をいちばん鮮烈に記憶しているのではないだろうか。黒田智成。トモさん。日本ブラインドサッカー界の宝物のような存在である。2002年の韓国戦から現在まで、常に代表の一員であり続けている選手は彼だけだ。その俊敏さと躍動感は世界随一だと私は思っている。とにかく見ていて楽しい。

 また、「なぜそれができるのだ」と見る者を驚かせる「盲人力」の高さも抜群。浮き球をダイレクトでシュート、決して偶然とは思えぬヘディングや胸トラップによるボールコントロール、無音で止まったボールをいとも簡単に発見、ガイドなし(GKも無言)なのに自陣からドリブルしてきっちり6mラインから枠内シュート、味方のシュートコースを開けるためにゴール前でジャンプ…などなど、「ウソだろ」と絶句するようなシーンをこれまで何度見せられたかわからない。

 そのセンサーは、最近さらに精度が高まっているようだ。ある代表選手は、練習であまりにも鮮やかにドリブルで抜かれるので、「トモさん、このごろ見えてるんじゃないですかね。たぶん、義眼のピントが合ってきたんじゃないかなぁ」と、悔し紛れにわけのわからないことを口走っていた。「スーパー盲人になりたい」というトモさんにとっては、最大級の褒め言葉かもしれない。

 とはいえ私は、このサッカーの取材を始めてから、トモさんの代表でのゴールはなかなか見られなかった。2006年の世界選手権も、2007年のアジア選手権も、ノーゴール。最初に見たのは、2009年のアジア選手権だ。

 その大会も、チームはマレーシアに5-0で勝ったりしているのに、トモさんは乗り遅れていた。ところが、決勝進出の懸かった韓国戦でファインゴール2発。あの華麗な2つのゴールで、トモさんは私の中で「ワールドクラス認定」されたのだった。さらに2011年アジア選手権の韓国戦では、両膝を痛めながら終盤に魂の逆転弾。この2つの韓国戦は、いまでも思い出すたびに胸が熱くなる。

 以前は国外での試合で得点がなく、「飛行機が苦手なせいか?」と内心で案じていたが、最近はもうどこで何点取ったのかいちいち覚えていられないほどゴールを量産している。また、パラグアイ、ドイツ、コロンビア、トルコなど欧州や南米の大柄なチームからもゴールを奪えるようになった。

 そして今年5月のIBSAワールドゲームスでは、ついに中国から初ゴール。帰国後にグラウンドで会ったとき、こちらが何か聞く前に「深川さん、中国からやっと点取ったんですよ! ざまーみろって感じでした」と笑顔を見せたのが印象的だった。それまで何年も中国ディフェンスに完封されてきたのが、本当に悔しかったのだろう。

 世界選手権では「もう、欧州や南米との試合は特別なものではなくなりました」と力強く語っていた日本の大エース。9月には、アジアの壁を軽々と飛び越えてくれることだろう。私はパラリンピックの舞台で、「ジャパンのナンバーファイブ」を世界中に見せびらかしたい。その日は必ず来る。がんばれ、トモさん。
by deepriver1964 | 2015-08-05 19:47